狗の賛歌
春日ススム

(老兵はロッキングチェアの中で思いを巡らす)

戦ってたあの頃が終わっちまって
もう何年経つんだろうな
街にはきっと銃弾の跡なんざ残っちゃいない
乾いた血の黒も
硝煙のにおいもないだろう

(老兵はテーブルの上のコーラを見る)

何人殺したっけな
何人死んだっけな
歓喜も憎悪も随分教えこまれたけど
結局忘れちまったなあ

(老兵はコーラを取り上げて口に含む)

おれはこのコーラみたいなもんだ
すっかり温くなっちまって
昔の冷たさは見る影もねえし
すっかり気が抜けちまって
昔の辛さは何処へやら、だ
・・・・・・甘ったるくなったもんだぜ

(老兵を呼ぶ声がする)

トムの坊主め
またなんかやらかしやがったな

(老兵は日の光にコーラを透かす)

ふん
だがまあ・・・・・・見れねえ色でもねえな

(老兵は大儀そうに立ち上がって、孫の元へ向かう)
(冷たいコーラは何処にもない)


自由詩 狗の賛歌 Copyright 春日ススム 2005-06-25 22:45:45
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