夜のけだもの
木立 悟
ひとりひとりの背に棲むものが
夜更けに互いを呼びあっている
見えないものの通り道に立ち
腕をひろげ 聴いている
夜の光の下 揺るぎないもの
幾つもの影のなか
ひとりきりのもの
原でもなく野でもない
二つに分かれた草地の間に
のたうちながらおまえは生まれた
放り出され 声もなくころがるおまえの上で
ただ月だけが吠えていた
既に亡い多くの緑たちに
おまえの誕生を告げていた
まっすぐな夜を曲げては光る
はばたく手足 おまえの負の影
人知れず哭く おまえの尾の星
月が無言で白みゆくとき
町のすべての曲がり角に
横たわり 立ち上がり
消えてゆく