そこに佇む
霜天

遠くはならない
それ以上はどこへも
窓辺に並んだ椅子は
白く塗り変えられていた
捕まえ損ねた手は誰のものか
白く塗られる前も
その前も
そこに在るだけで
忘れていくことばかりで
遠くはならない
遠くへは行けない
誰かがそう言っていたのを
かすかな揺らめきで覚えている

鏡面のように日々が
静かに暮れようとしている
そこに佇む僕らの
真ん中で椅子は
ただ海を見ている
遠くはならない
これ以上僕らは
近づいては間違いのような挨拶を
繰り返す
少し斜めのその椅子に座ると
かたん、と床を叩く音
窓辺から傾いていく世界へ
ここに在ることを確かめるように


かたん、かたん、かたん


そしてまた、月は朝に取り残されて
空に溶けていくのを
その椅子に座って見送っている
遠くへは、行けない
捕まえ損ねたものたちの
さようならの手のひらが
そこで振られて溶けていく
遠くへと
遠くへと
ここに在るものを
忘れていくこと、ばかりで


自由詩 そこに佇む Copyright 霜天 2005-06-23 01:51:57
notebook Home 戻る