土と素足
木立 悟




土のなかの心臓から
水煙の姿に羽はのび
雨の色
樹の下の冷たさ
したたる音の葉を伝えてゆく


雨の奥を飛ぶ声があり
ゆるやかに近づき通りすぎ
高みへ高みへ去ってゆく
この水を名づけてはならない
この水を
名づけてはならない


とらわれていたうたが
ひとつひとつ放たれて
頬には右にも左にも
涙のかたちに木漏れ日がさし
はじまりの午後を見つめては
微笑みとともに目をふせる


長いあいだ忘れていた
よろこびが聞こえ よろこびになり
土と素足はふたたび出会い
水たまりの径から径へ
ふたたび離れ
ふたたび出会う


羽の行方をわたしは知らない
知っていることはとても少なく
ただこうして歩いている
わたしとわたし以外のものを
隔てる何かを知らないままに


すべてに羽があるという
さびしくまたたく考えになり
どうしようもなく火を想うとき
土はひとときはばたいて
濡れた素足は飛ぶように
雨と雨のはざまを名づけ
放たれたうたを歌いだす








自由詩 土と素足 Copyright 木立 悟 2005-06-20 16:34:08
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