午緑(指先)
木立 悟




風と草がつくる螺旋と
屋根の上の鴉をひたし
雨は雨の光を撒いて
ひとつふたつと陸を離れる
水が水に与える冠
ひととき またひとときと
川のかたちの既視となる午後


小さな虫が数匹飛び交い
鉄の檻の扉をまわり
五つの音を震わせている
緑の前に立つ透明が
音から音へと振り返る


まやかしは少しずつ減りつづけ
ついにはひとつのかがやきになった
受けとめたのは影だけだった
そのやわらかなからだの隙間に
かがやきはただ沈んでいった


涼しさは常に素っ気なく
未来の姿のままそこにある
首から肩にかけての線が
無言で午後の光をさえぎり
闇に緑をかがやかせている


草の傷と鉄のにおいを
つまむように差し出して
雲を数える指先に
緑を数える指先が触れ
螺旋の音をたててゆく


手のひらから離れた手のひらは
薄暗がりの陽に透けて
緑に緑にそよいでいた
幼い鳥が飛び立つ音
すぎゆく蝶の羽の音
かがやきの悲しみを知りながら
遠くはばたくものへ届けと
影は雨に手を振りつづけていた







自由詩 午緑(指先) Copyright 木立 悟 2005-06-15 18:03:58
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