立入禁止
有邑空玖


ちょうど何処まで行っても追いつけない陽炎のように
安寧の地はますます遠ざかるだけだ。
コノママデハイケナイ
でもあたしはまだ貴方を憶えて居る。


買い物籠の中にはチョコレート
とコーラ
とアスピリン
を飲み下すための冷水。
下ろしたての赤いサンダルが少し痛い。
冷房の効き過ぎたコンビニから外に出ると
夏が甦って来る。


夏だったから、
貴方が居なくなったのがとても暑い夏だったから、
未だに熱を持ち続けて居る、あたしのてのひら。
不確かな巻き貝の記憶が
何度でも貴方の声を繰り返す。
繰り返して
もう何も考えられないように
繰り返して
全部忘れて。


国道は永遠みたいに続く。
あたしは赤いサンダルでゆっくりと歩く。
コノママデハイケナイ
でもあたしはまだ貴方を憶えて居る。
巻き貝が繰り返すから、夏を
誰も立ち入れない
夏を。





自由詩 立入禁止 Copyright 有邑空玖 2005-06-12 16:06:01
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