新しい風を引き連れて
ブルース瀬戸内

新しい風を引き連れて
花粉が宙を舞っている。

その軌道は非学術的でも
その姿は強烈な意思を内包している。

無愛想なハチとクロスして
花粉が宙を舞っている。

その生き方は決然として
その目的は運命論に染まっている。



統計学的に私たちが
ごくありふれた生涯を過ごすからといって
何かを諦めた痕を顔に残して
明日の朝を迎えたくもないものだ。

花粉の軌道は、
めしべに無事辿りつけば
遡及して正当化できることになっている。



新しい風を引き連れて
花粉が宙を舞っている。

戦略も思想も及ばない軌道は
やがて、めしべに至って終わることになる。

じきに
無邪気に大きな花を咲かせて
うちの庭に異様な存在感と供にたたずんで
それを私が毎朝見ることで
顔の痕がとれることまでは知っていても

とれた痕がやがて花粉に結晶するなんて
科学的根拠に乏しいことは
やっぱり今も信じられない。

新しい風が
顔の横を心地よく通り抜けていって
私は窓を閉めて身支度を始める。


自由詩 新しい風を引き連れて Copyright ブルース瀬戸内 2005-06-11 01:34:26
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