河童
yo-yo


ひさしぶりに親父に会った
釣ったばかりの岩魚をぶらさげて
反りかえって山道を下りてくる
いつかの河童に似ていた

秋になると
川からあがって山へ帰ってゆくという
そんな河童を村人はセコと呼んだ

親父とはあまり話をしたことがない
だからセコが
勢子なのか背子なのか俺は知らない
ひたすら獣を追いかける勢子よりも
女子おなごに追われる背子のほうがいいと言うだろう
そういえば親父は
ときどき河童語をしゃべる

親父は俺よりも2センチ背が高い
肩幅も広いし脚も長い
山野と川原を駆けぬける河童の防人さきもり
草の匂いと水の匂いがする
きっと人間の臭いも親父の方が濃厚だ

うちんひとは河童に毛まで抜かれてしもうた
おふくろは河童が大嫌いだ
腐った鯖のはらわたで団子をこねて
親父はそっと夜釣りに出かける
川にはけつの穴を吸いにくる河童がいるらしい

雨あがりの山道
牛の足跡の水たまりに
なんと千匹もの河童の目が光っていたという
そんなものを見た村人はもういない
じつは親父もとっくに死んでいる

頭のはげた背子の話をすると
老いた雌の河童が泣くらしいが

親父とはもっと
だいじな話をしたかった





自由詩 河童 Copyright yo-yo 2005-06-08 06:30:26
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