Katabasis

妻を探していた
出会ったことはなかった
ただ物語の語られる夜の淵に笑っていた
亡霊のような薄明かりの白百合
それがわたしの名前だった

そこは死ののちに現れる森
わたしは名前を失った天使
恍惚と月が闇を照らしている
亡骸が歌っていた
夢を見ることの嘆き悲しみ
「お前は誰にも見付からない」

蔦のように絡みながら
1本の河が伸びる
生まれなかった子どもたちの水葬
老いさらばえた足に
咲いた花に
剥がれた爪に宿る幾千の人のたましい

遠く光るものはみな幻だった
からすのように夕暮れを呼んで鳴く
世界という定義から外れた世界
目隠しで触れる道
わたしは禁の傍らに育つ秩序
妻よ

お前がまだ鳥のように空を駆けた頃から
変わらぬものはないが
この手に掴めるものならば髪の1房で良い
口付けさせておくれ
目の奥にしまいこんだ鍵を
土塊の扉に差し込んで
祈りを開く

帰ることのできる家なら興さなかった
翼あるすべての絶望の一員として
わたしは足を捨てる
閉じられたまぶたに触れるものは
光ではない
お前だ


自由詩 Katabasis Copyright  2026-03-04 19:21:47
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