小説の習作 原稿用紙三頁 #11
田中教平
ユウスケはこの日も深夜に起きてしまった。シャワーを浴びて、あたらしい服に着替える。
やっと落ち着いて書斎のノートパソコンの前に構えたが、やがて方々にメッセージ、具体的にはお詫び文を書いている内に、脳が疲労してきた。
彼は、二階キッチンに向かい、ブルガリアヨーグルトを木皿に盛り、それに蜂蜜をかけて食した。
書斎に戻り、座り、もう一度眠ろうと思い立ち上がろうとすると、左脚の膝が痛んだ。薬の副作用で、筋肉が硬くなっていた。
寝室に戻るだけ億劫である。
ともかく、彼は寝室に戻る事をやめ、昨日のあらましを思いかえしてみる事にした。
痛苦と反省の念で溢れかえってきた。そう一行、書き記してみて、しかしそれを書くにも値しないじぶん、というものを見いだした。
彼の喉はからからであったので、麦茶を一杯飲もうとして、又、二階キッチンへ向かうに、途中、妻の寝室があった。
勿論、彼女は眠っている。
午前三時になった。外は激しい雨がふっている。ユウスケの胃は痛み、やっぱり頭の調子が、そして気分が優れなかったものだから本日の仕事を放棄して、安静につとめようと考えた。ユウスケのあたらしい精神薬は一向にその効果を感じる、という事がなかった。
加えて気分を悪くする内服の禁煙薬をとっていたからいけなかった。
気分を害していると書斎が、主に本棚が荒れている事に気づいた。彼は首をグルグル回すと、本棚を中心に書斎を片づける事にした。
周囲に灯りをつけている家が無かったので、この家の書斎だけ煌々と明るんでいた。ともかくユウスケは片づけに取り掛かった。
年始からつけていた日記帳があった。本日、二月二十三日であるのに、二月十五日で止まっていた。
山頭火全句集があった。山頭火は書いている。
──誰が悪いというのではない。誰が悪いといえば皆が悪いのだ。
その言葉は彼を癒やさなかった。寧ろ、その言葉の冷酷さにぐうの音もでないと思ったし、ユウスケ自身は自身を悪人だと思っていたが、更にその自覚が増した。
「南無阿弥陀仏」
そう、諳んじて、片づけを続けた。
雨の中をコンビニまで歩いて行った。彼は起きている人が、こんなにいるんだと思った。
コーヒーに、チョコレートを買う事にした。チョコレートなんて買うのは久しぶりだった。
最近は殆ど粗食であったし、チョコレートも高くなった、そんなちょっと食べるものは手に入れていなかったのである。
この日はいつまでも雨を眺めていた。チョコレートを齧りながら。甘い、甘い味がした。すっかり、忘れていた味であった。