旅の果て
たもつ


男は長い間カバンの中に住んでいたが
ある日旅をすることにした
もちろんカバンを忘れなかった
昼間は旅を続け
夜になるとカバンの中で寝た
朝起きると同じ場所にいることもあったし
誰かの手によって
他の場所に運ばれていることもあった
カバンの中と外の世界はやはり違っていて
やはり同じだった
けれど何が違っていて何が同じだったか
うまく説明できなかったし
説明する相手ももういなかった
男はやがて死んでカバンを一つ残した
そして最後まで
何故自分がカバンの中に住んでいたのか
知ることはなかった




自由詩 旅の果て Copyright たもつ 2005-06-05 11:21:28
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