『琥珀の襟巻と銀の兎』 第六章:ひろわれた石と紅葉
板谷みきょう

ずっと後の時代。
ひとりの子が、渚でその小さな石を拾い上げた。

石は少しも光らなかったが、
子は生涯その石を掌から手放さなかった。

誰かを救えなかった夜、
石は掌の中で同じ分だけの重さを
返してくれたからだ。

老いた子は、やがて
石を庭の土に深く埋め、
自らも名を残さずに
この世を去った。

その場所では草がよく育ったが、
不思議なことに
花は一度も咲かなかった。

ある秋の日、
川から一枚の紅葉が流れ着いた。

それはかつて
蛇が神になる道を捨てたときに、
世界と繋ぎ止めた細い糸のようでもあった。

翌朝、紅葉は風に吹かれて消えていた。

世界は結局、何も変わらなかった。

だが、誰にも知られぬまま
沈黙を引き受けたその重さだけは、
確かに土の中に、
そして子の記憶の端に残っていた。

それもまた、この不完全な世界が
壊れずに続いていくための、
最後の一片の理由であった。


散文(批評随筆小説等) 『琥珀の襟巻と銀の兎』 第六章:ひろわれた石と紅葉 Copyright 板谷みきょう 2026-02-11 09:47:56
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