『三郎沼の守り火』 第三章:闇に置かれた血判
板谷みきょう
雨上がりの湿った夜、
三郎は村長の枕元に音もなく立った。
三郎が去った後、
座敷に残されていたのは、
一枚の古びた血判状であった。
「おらの命ば龍神に捧げる。したから、三郎沼わ沈めねぇでけれ。」
村長は、暗がりに置かれたその紙の重さを
量ることはできなかった。
三郎は誰に見送られることも、
感謝されることもなく、
独り深い谷へと向かった。
一度も振り返ることはなかった。
それは、自分の命と引き換えに誰かの日常を買い取るという、
あまりに静かな、自らの存在を抹消するための儀式だった。
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童話モドキ