『三郎沼の守り火』 第三章:闇に置かれた血判
板谷みきょう

雨上がりの湿った夜、
三郎は村長の枕元に音もなく立った。

三郎が去った後、
座敷に残されていたのは、
一枚の古びた血判状であった。

「おらの命ば龍神に捧げる。したから、三郎沼わ沈めねぇでけれ。」

村長は、暗がりに置かれたその紙の重さを
量ることはできなかった。

三郎は誰に見送られることも、
感謝されることもなく、
独り深い谷へと向かった。

一度も振り返ることはなかった。

それは、自分の命と引き換えに誰かの日常を買い取るという、
あまりに静かな、自らの存在を抹消するための儀式だった。


散文(批評随筆小説等) 『三郎沼の守り火』 第三章:闇に置かれた血判 Copyright 板谷みきょう 2026-02-10 07:42:34
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