『琥珀の襟巻と銀の兎』 第三章:かもめが運んだ蒼い鱗
板谷みきょう

朝が近づく頃、一羽のかもめが
低く海面を渡っていった。

そのくちばしには、
海の底の人魚が託した、
一枚の蒼い鱗が挟まれていた。

長い夜のあいだ、
人魚は海の上を走る兎たちの足音を、
やりきれぬ思いで聞いていたのだ。

命という名の足音が増えるほど、
光の届かぬ海の底は皮肉にも
静かに冷えきっていった。

かもめは高く空へ昇り、
きつねの膝元にその鱗を落とした。

拾い上げた瞬間、
きつねの指先はわずかに震えた。

蒼い鱗は夜の海の凍てつく冷たさを
そのまま閉じ込めたようで、
掌にのせただけで、
きつねの胸の奥までを静かに凍らせていった。

そこには言葉はなかった。

ただ、これ以上光がこぼれれば、
戻れないものが増えるだけだという、
取り返しのつかない重さだけが伝わってきた。

きつねは改めて襟巻に触れた。

それが月を絞る道具である前に、
誰かのぬくもりそのものだったことを、
その冷たさの中で思い出した。


散文(批評随筆小説等) 『琥珀の襟巻と銀の兎』 第三章:かもめが運んだ蒼い鱗 Copyright 板谷みきょう 2026-02-07 20:00:15
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