『琥珀の襟巻と銀の兎』 第二章:波間に弾ける足音
板谷みきょう

空からこぼれ落ちた兎たちは、
そのまま深い海へと沈むはずだった。
だが、
彼らが底へ届く前に、
波がその体を激しく弾き、
兎たちは夜の海面を走り始めた。

月へ帰ろうと必死に跳ねる兎。

月の上から、それを見つめる兎。

同じ光から生まれながら、
海面という冷酷な境界を越えることは、
彼らにはもう許されなかった。

夜の海は、
行き場を失った白い足音で満たされていった。
きつねが月を絞るたび、
地上の兎は増え、
夜空の月は少しずつその身を削り、
欠けていった。

空が静まり返るのと対照的に、
海だけが騒がしく波打ち、
兎たちの嘆きを響かせる。

その音は、人魚の住む静寂の底へも、
絶え間ないノイズとして届いていた。

幾千の白い影が
波間に弾けては消えていく光景は、
救済という形をした、
出口のない終わりなき漂流であった。



散文(批評随筆小説等) 『琥珀の襟巻と銀の兎』 第二章:波間に弾ける足音 Copyright 板谷みきょう 2026-02-06 20:47:48
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