『きつねの襟巻、人魚のうた』 第三章:鴎が運んだ蒼い雫
板谷みきょう

夜明け前、鴎が低く海を渡りました。

くちばしには、人魚が託した
一枚の蒼い鱗がありました。

人魚は、夜のあいだ、
波間を走る兎たちの音を聞いていました。

音が増えるたび、
海の底は静かに冷えていきました。

鴎は空へ昇り、
きつねの膝元に鱗を落とします。
拾い上げた瞬間、
きつねの指先がわずかに震えました。

鱗は冷たく、言葉はありませんでした。

けれど、これ以上こぼれれば、
戻れないものが増えることだけは、
はっきりと伝わってきました。

きつねは、襟巻に手を触れました。


散文(批評随筆小説等) 『きつねの襟巻、人魚のうた』 第三章:鴎が運んだ蒼い雫 Copyright 板谷みきょう 2026-02-04 18:30:45
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