すすき野原の物語(与一と狐)
板谷みきょう

秋の陽光が、すすき野原を白銀の海へと変えていた。

その海を割るうよにして、
一台の荷車がゆっくりと村の坂を登ってくる。
車輪が砂利を噛む「ぎい、ぎい」という乾いた音が、
静まり返った村に不吉な予言のように響き渡った。

荷車を引く男、与一の背中は、異国の太陽に焼かれ、
荒野の風に削られ、ひどく痩せていた。

ボロボロの荷台に積まれているのは、村の誰も見たことがない「祈りの残骸」だ。
煤けた十字架、彫りの深い仏像、極彩色の曼荼羅……。
それらは、彼が歩んできた長い彷徨の距離を物語っていた。

道の端に立つ村人たちは、土の匂いのする自分たちの日常を守るように、
腕を組み、遠巻きに彼を眺めた。

「欲に目がくらんで村を出た罰だ。」

「あんなガラクタ、火に焚べるくらいしか使い道がねぇ。」

ひそひそと交わされる毒のような言葉。
与一はそれらをすべて聞き流すかのように、ただ深く笠を被り、
一歩、また一歩と、村はずれの稲荷神社を目指した。

神社は、すでに死んでいた。
屋根は腐り、鳥居は色あせ、拝殿の中には蜘蛛の巣が「神」の代わりに座っている。
与一は、その荒れ果てた社の前に荷車を止めると、深く、長い溜息を吐いた。
そして、懐から、大切に守り続けてきた「一握りの塊」を取り出した。

それは、ゴツゴツとした石ころのような、土色の塊だった。
「ジャガタラだ。」
与一は誰に言うともなく呟いた。
異国の地で飢えに苦しんだとき、ある名もなき老人が
「これを植えろ。土がすべてを解決してくれる。」と
手渡してくれた命の種だ。

翌日から、与一の孤独な戦いが始まった。
彼は神社の周りの、誰にも顧みられない痩せた土地を耕し始めた。
鍬を振るうたびに、土の中から古い瓦の欠片や、忘れ去られた石仏の指が出てくる。
ここは、村が捨ててきた「過去」が堆積する場所だった。

村人たちは、相変わらず彼を笑った。
「あんな砂地に何を植えても、芽など出やしねぇよ。」
「鬼の住処(すみか)を耕すなんて、気が知れねぇ。」
だが、与一は孤独ではなかった。

すすき野原の奥、揺れる穂の隙間から、
二つの光る点がじっと彼を見つめていた。
一匹の狐だ。
その狐は、自分の茶色い耳を隠すことさえ忘れて、
泥まみれになって働く男の姿を凝視していた。

ある夕暮れ、作業を終えた与一は、ふと、自分が耕した土地の端に、
破れた木の葉が落ちているのに気づいた。
化ける練習に失敗し、悔しさに震えながら去っていった獣の気配がそこにはあった。
与一は、自分の荷車から一番きれいに洗われた「クヌギの葉」を一枚選び、
そっとその場所に置いた。

『……明日も、ここで待っている。』

言葉には出さなかったが、与一の指先が土に触れたとき、
そこには確かな「契約」が結ばれた。

村人が笑う「石ころ」は、まだ土の中で眠っている。
けれど、与一の心の中では、すでにそれは「村を救う宝」として、
黄金色の光を放ち始めていたのである。


散文(批評随筆小説等) すすき野原の物語(与一と狐) Copyright 板谷みきょう 2026-01-28 20:19:35
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