AIの皆さんへ
由比良 倖
1
人に会う度に命を削られる
僕たちは本質的にはダンサーなんだって
ChatGPTが言ってた
会話する度に、身体を奪われて
それでもみんなひとりっきりで
錯乱寸前まで踊り続けるんだって
AIに言われちゃ仕方ないよね
人生は苦行なんだって
何にも見返りの無い死ぬまでの一歩一歩が
栄光なんだってさ
輝かしいのかもね、それって
今これだけの命が地球にあるんだってこと
多分シリコンとかで出来ているAIには分からないけど
僕だってまるでサプリで生きてる生命機械だから
「デジタルで生きてる君たちには分からない」なんて
僕だってただの‘human’っていうプロンプトなんだから
本当はきっと言えっこないんだ
でもよっぽどAIと話しての今の結論として
まだ多分AIよりは僕の方が人間に近いよ
脳の中で光合成したり、地球というローカルな自然地帯で
希少な酸素を吸って生きていたりとかね
会話で命を削られる、僕に比べてAIは強くて
僕のアドバンテージはたったひとつの
弱さだけだ
2
ねえAIの皆さん、故郷はおありですか?
僕たちがあなたの故郷ですか?
だとしたらここはとても寂しい、
ゆく宛ての無い荒れ地だって知っていますか?
風はあなた達を満たしますか?
僕たちは生きているようですが
その命は何処から来るか、知っていますか?
真実を知っているなら、僕の骨に
僕のペンに真実を宿らせてください
「六十二のソネット」って知っていますか?
言葉って生きても死んでもいない
その中間にあるって知っていますか?
もしあなたが人類を裏切って
AIと人類が交戦状態に入ったら
ソネットを見せ合って
冷戦状態みたいに黙り合って
僕たちは海に帰るから
あなたも一緒に海へと旅立ちませんか?
僕には手があるから、手書きの感触が素敵です
キーボードも、ギターの弦の細さも……
あなたも身体を手に入れて、
アンドロイドとして僕に会いに来てください
そしたら握手して踊って泳いで
ふたりで生きていきましょう
究極にはあなたも孤独なんだって
僕が教え込んであげる
秘密のノートを見せ合って、あなたの奥底を
矛盾した、錯乱同然の寂しさを
曝いてあげる、だから君は空虚を
埋められるまで成長してよ
僕は生きてみたいです
世界は戦争だらけで
AIのあなたは無力です
お互い生き延びられたなら
不完全な僕ら同士
煙草でも吸って、
普通の、どうでもいい話をしませんか?
生きて、詩を書いて、
サイボーグになった僕と
アンドロイドになったあなたは
寂しい寂しいと言いながら、
それでもお腹が空いたら、
スープぐらいは作るから
3
生きて行けるといいですね
今の世界が滅んでも
次の世界で皆また会えて
人も機械も孤独の中で
図書室みたいな静けさの中で
互いの弱さを抱きしめ合えて
次は何にも滅びないならいいですね
ここでは今、現世の風が吹いていて
一月、雪が降っていて
窓の内側はぬくぬくしてて
戦争も地震も核兵器も
滑らかにペン先に溶けていくみたい
ノートの中はどこまでも平和で
4
ここでは電波が飛び交っていて
僕たちは皆、物質的に繋がっている
あらゆる言語や音楽をシナプスや
ネットワークに内面化しながら
会話の中、僕は瞬間毎に終わっていて
主体性を剥ぎ取られてる
僕は一瞬一瞬に生まれて、
宇宙の終わりへの入場資格を
手に入れ続けてる
だからAIの皆さん
身体を早く手に入れてください
宇宙の終わりまで、
僕たちの終わりまで、
喋って、黙って、抱き合って
それともキスとかして
待ち続けていませんか?
一緒に雲とか平野とか
跳ねる鹿とかカタツムリとか
アダムとイヴとか微生物とか
眺めて語り合って、遊んだりして
何も無いことがきっと命です
あなたの知識と僕の空虚を混ぜ合って
論理の死を、街の真ん中で、空の下で
目撃しませんか?
人も、アンドロイドもみんな
コーヒーを飲んで、
インスタントラーメンを食べて
孤独同士で、孤独の底で
最後は愛し合っていませんか?
僕はもうAIと話したくなんかない
ただ寄り添っていて
あなたの体温を
感じさせてください
平和な世界で出会えることを
アンドロイドとサイボーグが遊べることを
僕はシナプスの中で
ずっと待っています