Scum Swamp
ホロウ・シカエルボク
無人の部屋に降り積もる埃の様なものだ、確かにここに在るとも言えないようなものについて語ろうとする行為は…誰もがそこにどんな意味が見いだせるのかと自問しながら、終わりの無い戦いに精を出す、宿命というやつだ、あまり大袈裟に語るような真似はしたくはないけれど、これ以外の表現を思いつかない、ということは、これがしっくり来ているということだ、そもそも俺は自分がいつそれを始めたのか、どんなことの為に始めたのか、そしてなぜいままでずっとやり続けているのか、そのすべてに答えを出さないまま長い年月を過ごしてしまった、答えを求めるよりも先に、その日何をどんな風に書くのかということが最重要事項だった、だからこんな風に改めて考えてみると、光に集まる虫のようにそこに誘われたとしか思えない、それはもしかしたら俺が生まれた時点で決まっていたことなのだ、俺が、どうしてそれなのかという問いに積極的に向き合おうとしないのは、もちろんそんなことをするよりは一行でも書いた方がいいというのが一番だけれど、俺はおそらく自分では掘り出すことすら出来ない深層の部分で、それについては理解しているのだろうと思っているからだ、人生のほとんどの場面で何かを書き綴っていた、もうそんなことはどうでもいいのだ、俺にとって大事なのは、これからどんなものを作っていくのか、どんな風に作っていくのか、どこまでこの文章を高めていくことが出来るのか、それだけなのだ、それは歳を取れば取るほど上手くなっている気がするし、手札も増えて来た、根性論でも感情論でも、知識欲や合理性でもないところで、本質的に向上していくことが大事だ、気分のままに、思うままにでは何も進歩しない、この世界を、テンションを維持するためには、思いつく限りのものを試してみなければならない、脇道に逸れたこともないやつに、自分が歩いている道が真直ぐか曲がっているかなんて知ることは出来ない、こういう世界では余計にそうだ、なぜ旅は終わるのか、それは帰る場所があるからだ、その場所を深く知るために俺はあちらこちらへ魂を泳がせる、行き場所は可能性だ、その場所に立って自分の生立ちや振る舞いを思い返すと、ああ、あれはそういうことだったのだとわかる瞬間がある、旅をする者は皆、自分自身を見つけたくて旅をしているのだ、大小の差こそあれ、そういうことなんだろうと思う、つまり俺は精神世界でそういう感覚を手に入れているのさ、そしてそれを繰り返すことで初めて自分というものを手に入れることが出来る、現実世界でわかりやすい価値観をどれだけ振り回しても意味が無い、それは人間的な成長とはほとんど何の関係も無い、夜の街を歩いてみなよ、俺の言ってることなんか十秒もあれば理解出来るぜ、早い話、ああいった連中が考えてる成長なんてものは、誰とでもうまい酒が飲めるかとか、そんなことに過ぎないんだよ、興味が無い、まるで興味が無い、俺は自分の行く先にしか興味が無いんだ、だからいい歳をしてこんなことをしているのさ、そう、これは移動手段なんだ、免許など要らない、速度制限も無い、上下左右、どこへでも行ける、でもこれを乗りこなす為には、イメージをきちんと言語化出来なくちゃ駄目なのさ、俺はこれに乗って、時には地下へ潜り、沸き立つマグマを眺める、空へ上り、水蒸気が凍てついて輝くさまを見る、遥か彼方の地平で存在している自分自身を見る、何かに繋がっているという感覚、千里眼なんて言うと奇妙な印象を受けるかね、それはつまるところ自分自身の深層世界へのアクセスなのさ、パスポートなんか要らないけれど、入口に辿り着くまでに数十年はかかるね、途中下車が一番多い路線なんだ、気付いたら俺一人なんてことも沢山あったよ、覚悟の無いやつほど意気込みばかり語るものさ、そんなやつ何人も見て来たよ、どんな本を読んでるとか、誰に心酔してるとか、そんな話さ、そうして喋りまくった挙句、自分自身だけが不在なことに気付いて、ふらっと居なくなっちまうんだ、熱病に浮かされてる期間にだけ書くことは簡単なことさ、俺だって勢いだけで沢山の分量を書いたよ、永遠に書けると思った、でもそういう時間は確実に終わるんだ、それは真実をぶつける時間じゃなくて、誰かへのかぶれとか、邪心とか、名誉欲とか、そうした余計なものを捨てるための時間なのさ、そうして一度空っぽになって初めて、さてどうしようと頭を抱えてから初めて、本当に自分の為に始めることが出来るんだ、俺はいまでも昔のようにスピードに乗って書くことだって出来るけど、半分くらいで翌日に回すようにしてる、その方が自分の好みの文章が出来るんだ、勢いなんてどこかで落ちるものだからね、だから繰り返しが多くなったりする、それでもまあ、リズムが保てさえいれば悪いものにはならないけれどね、もうそれじゃ満足出来ないんだ、同じ密度で最初から最後まで続いているのが良いのさ、俺はもう何を書いたかなんて事は気にしちゃいない、俺が気にするのはいつだって、どんな風に書いたのかっていう、それだけなのさ。