用意
スナ
座られて、居る
椅子が、在る。
なんどか
座った、覚えのある椅子
が、いま誰かに
座られて居る。
その誰かに座った覚えも
在るのだ
が、未だにその
誰かが
わからない
で居る。
「正面から
ご覧、頂きます
と、同席という状態になります。」
笑顔を作りきれていない状態で
同席という状況を説明してくれる。
横向きの
あちら
側の耳に
座りたいと想う。
適度に綿が詰め込められた、渦巻く
お手頃
な、クッション
と、でも申しましょうか。
西は、ここで三度揉み手をして
居続ける。
ボクみたいな私は
西を西じゃないと思う。
一個しかないわたしを埋めたいのです
身体という状況で
笑顔を作り終えない完成品の上
状態として
一眠りしたい。
板倉は云う
たくさんの
いやーっ
ええ、たくさんの
誰も座って居ない
椅子が、ええっ、そーっ、走って居ります。
突っ走って、居ります。
ボクじみた私には
板倉は、板倉にちがいないと
しか思えてならない。
空席しかない
その疾走に
わたしは、いたしかたなく
腰を沈める約束を
かつてしたように
その時、思えた。
「用意周到ですね…」
独特な、あの鼻声で
空間に、一語一語
打刻される用意周到
これってぇのは
やっはり
契約みたいなもんですかね?
わたくし方面に、まもなく運行がまいります。
危険ですので
白線まで、お下がりください。
俺は、手首を見た
いつから時計をしなくなったんであろう
皮から映えて居る
小さい毛を数えながら
数えながら
わたし、で
笑った。
すると
西も板倉も未だにわからない
誰もがドッと笑った。
いや、笑ったように思えた
いや、笑って居るにちがいないと
さえ、思えてならないのだった。
用意されていた
或る椅子。
用意されていた
にも、かかわらず
或る誰かに座られている椅子。
その椅子に座っている誰かに
座る自分は、1から幾つまで
或るなのか
数えても、悪くはない
と、正面から
また、笑ってやるのだった。
「ええーっ
正面から
ご覧、頂きまして
も、同席という状態に
なんら
変わりはございません。」