アルゲリッチのラフマニノフ「ピアノコンチェルト第3番」を聴いてみる。
洗貝新


「まつとおね」NHKBSプレミアムステージで吉岡里帆ちゃんが二人芝居を演じていた。会場は昨年被災した能登演劇堂だった。
放送の終わりに僕の大好きなクラシックのピアノ曲が流れてきた。題名を忘れてたが検索ですぐにわかった。
ベートーベンのピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章だ。
早速動画演奏で聴いてみる。
何人か日本人のピアニストが演奏していたが、なかでもテレビ番組でもお馴染みの清塚信也氏の、ゆったりとしたのびやかな、それでも低音域とのバランスや細部までこだわった演奏が一番好みだった。
序でに、そんな彼が名演奏家たちとして挙げている動画も観てみた。
一番のお気に入りがマルタ.アルゲリッチで、しかも演奏は僕も大好きでCDも持っているラフマニノフのピアノコンチェルト。第3番だ。
ラフマニノフのピアノコンチェルトはあまりにも有名なのでテレビ番組でもよく耳にするが、僕のCDはアシュケナージの演奏だ。
アルゲリッチ。と聞けば彼女も一流のピアニストなので演奏する姿をよく見かける。というか、長い髪を無造作に垂らした、美形で如何にも芯のしっかりした年増ピアニストのイメージが強い。
さっそく演奏を聴き比べてみた。
楽器といえば、僕はクラシックギターしか扱ったことがないし、音楽の専門家でもないので詳しい理論的な解説はできないが、
ちょうど彼女とベルリンフィルとの共演した動画が出ていて、しばらく聴き続けていると、その異様と思える違いに驚いてしまった。
最初は、そのめまぐるしいほどによく廻る速いパッセージと少し乱暴にも思える迫力から、
オーケストラとズレているのではないか、と思ったほどだ。
しかし、徐々に彼女の演奏の魅力に引き込まれてしまう、その気迫はまるでオーケストラに向かって、わたしに付いてこい! そう言ってるような自信に溢れる演奏だ。
それは僕の耳も同様で、はじめは聴き慣れない演奏に付いていけなかっただけで、
気がつくと彼女の奏でる魔法の虜になっている。
当時男性中心のベルリンフィルの重厚な演奏に一歩も引けをとっていない。
その多彩で、ときには激しく打ちつける鍵盤の響きにはまるでジャズでも聴いているような刺激があり、聴いていて耳を飽きさせない。
ロシアの広大な大地を後にするラフマニノフが、汽車の窓枠から手を振って拍子をとっている。
彼女の背後には彼の魂が乗り移ったのでないか。そんな幻影も浮かんでくる素晴らしい演奏だった。
まだこの名演奏を聴いたことのないクラシックファンの諸君には、一度是非聴いてみてほしい。
それくらい価値のある、二度と聴かれない名演なのだ。




                        





散文(批評随筆小説等) アルゲリッチのラフマニノフ「ピアノコンチェルト第3番」を聴いてみる。 Copyright 洗貝新 2025-12-24 05:41:27
notebook Home