空から落ちた星をもらった日
花野誉

先日、都会の真ん中で、空から落ちた星をいただきました。

今年最後のライブに行くため、妹と大阪へ出かけました。
休日が重なり、朝から出かけて、夜のライブまで、大阪をぶらぶらすることにしました。

「うめきたグリーンプレイス」(JR大阪駅北側の広大なJR貨物ヤード跡地にできた都市型商業施設)へ、初めて行ってみました。
めったに、この辺りには行かないので、妹の後について、様変わりした景色をキョロキョロ眺めながら歩きました。

まだ新しいエスカレーターを降りて少し行くと、突然、広大な公園が現れます。
大きなドーム屋根の下をくぐると、芝生広場が見えてきます。
芝生の向こうには、スカイビルや、名前の知らないビルたちが、陽の光を反射し、キラキラ輝いてそびえ立っています。
都会の真ん中とは思えず、不思議な気分になりました。

芝生広場の脇に、巨大な透明ドームテントがありました。
中は、靴を脱いで、オセロをしたり、読書をしたり、のんびり過ごせる場所になっています。
そのテントの横に、膝下ほどの高さのハンモックが並んでいました。

妹と顔を見合わせ、
「寝っ転がってみるか」
と、ハンモックに寝そべることにしました。

妹のハンモックの揺れは、すぐに止まりましたが、私のはなかなか止まりません。
ずっと、左右に揺れています。
隣の人も、その向こうの人も、皆さん、静止したハンモックで寝そべっておられるのに、私だけ、ずっと揺れています。
だんだん恥ずかしくなってきて、
どうしたもんかとモゾモゾしていたら、どこからか、小さな男の子が傍に来て、私を見ます。
「これ乗りたい?」
と聞くと、なにやらゴニョゴニョ言って、向こうへ走って行きました。

なにせ、なかなか揺れが止まらず、やっと止まった時、今度は小さな女の子がトコトコやってきて、私と妹のハンモックの間で歩みを止めました。
「こんにちは」と、妹と二人で声を掛けると、
「あーあー」と、女の子は喋ります。
まだ、喋り始めてそんなに月日が経っていないようです。
急にしゃがみ込むと、小さな指で芝生の上をつまんでいます。
つまんだ何かを、私に差し出したので、手のひらに置いてもらいました。
それは、小さな小さな白い石でした。
彼女は、空を指差して、
「し、し」と、言います。
──石?
「石ね」と、私が言うと、
空を指差して、また、
「し、し」と、言います。
いつの間にか、女の子の後ろに初老の男性がいて、
「星ね」
と、おっしゃいました。

ああ、なるほど。
私は、空から落ちた星をもらったのか、と納得しました。

「し、し」
「星ね。ありがとう」

私がお礼を言うと、女の子は踵を返して、芝生の向こうへ走って行きました。
初老の男性は、
「おくつろぎのところ、失礼致しました」
と、丁寧に頭を下げられて、女の子を追って行かれました。

ただ、それだけの出来事です。
それでも、こんな素敵なことが自分に起こるなんて、と、
嬉しくなりまして、書かずにおれませんでした。
はい、そうです。自慢話です。




散文(批評随筆小説等) 空から落ちた星をもらった日 Copyright 花野誉 2025-12-20 18:04:13
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