ゆく
完備 ver.2
うすいろに光る午後の裏口まで
となり街の長い雨が
後ろ姿にくっついてくる
あなたの不在に慣れるより早く
引かれるカーテンは幕のようで
立ち尽くしていた気がする
いつまでもはじまらない舞台で
言いたい台詞があったことも
忘れていたかもしれない
どうして優しくできなかったのだろう
あなたはわたしを
あれほど愛してくれたのに
どうしてあなたを
傷付けてしまったのだろう
明日の天気を確かめる振りをして、
たましいの裏で繰り返す声が
とおくまでひびくのは
霧が濃いからか
あなたのお母さんに貰った
あなたの〈祈りのノート〉のコピーを
付箋を貼りつつ読み進めれば
「ゆいが悲しくありませんように」
というひとことに打ちのめされ、
手を洗えば
爪の間だけやたらと冷える
(汚れをすすぐための水も
(宇宙のどこかで光るのかなあ
あなたが飛び込んだ駅のホームで
お互いの人生で一度だけ
目が合う他人とすれ違い
通過する特急がきりさく風の強さに
目を細めてゆくさきを見ている