そこかしこ
花野誉
朝に聞いた曲
心の目が柔らかく開く
見落としていたもの
忘れていたこと
目玉焼きのカタチに
母が
洗濯したハンカチの色に
父が
リキッドの眉墨には
妹
私の白い頰に
娘が
キリリとした朝の寒さには
亡くなった祖父母
道すがらの祠に
田舎の従兄弟たち
ふと立ち止まれば
そんなところにも
こんなところにも
お昼に食べたメロンパンには
昔の同僚たち
焼き芋の香りには
幼馴染のまりちゃん
見落としてきたこと
忘れてきたことも
きっとたくさん
よく目を凝らせば
そこかしこに
誰かが浮かぶ
今、この手にある蜜柑にも
愛媛の親友
私を包む記憶たち
時は動いているのに
魔法めいて
あちこちに隠れている