蝶蝶を飼う
はるな
きみが蝶蝶を飼い始めた
爆発した工場跡でだ
あまりに広いので蝶蝶がどこにいるのかはきみにも分らない
時折ひらひら舞うのを見ては
「あれは違う 野良の奴だ」とか言う
爆発の日を今でも覚えている
街中に砂糖が降った
菓子屋は急いでケーキを持っておもてへ出て
フロスティングの代わりに砂糖まぶしのケーキが売れた
ぼくはまだ目も開いていない赤ん坊だったが
今でも覚えている
ざらざらと震える空気 騒ぐおとなたち
きみがどこかで生まれたこと
そしてきみは今糸を編んでいる
それはあらゆる色が混ざった細い細い糸で
蝶蝶につけるリードにすると言う
「信じられないくらい長く」編めば
どこまで飛んでも苦しくないでしょ と
コンクリート 光る糸
ぼくたちの不自由さが きらきら踊っている
蝶蝶 どこまでも行って 帰っておいで
でもそれは傲慢なのだから
きみがいつまでも編み終わらないから
ほんの少し 救われている