ノルウェー舞曲
牛坂夏輝
窓の内側で雪が降る
その部屋には
若く逞しく毛深い猟師たちの影が
猟銃ではなく
近代的な迷信の骨を研いでいる
部屋ではこういう詩を読んだ
「最愛の白い武器庫に
祈祷師を連れて行こう
われわれの時代の
遠い
遠い金属の停泊地
祈祷師は
印刷会社に問い合わせ
ひとつの幸福な心臓を収奪するだろう」
猟師たちの靴底には
冬眠した過失の名残りである
黒いクラリネットが眠っていて
吹けば
膨れ上がった浴槽の上に
恋人たちの物産展が
偉大な宮殿の石碑に刻まれるという
私はその静謐な義務と
飛翔するサンショウウオのための書物をめくりながら
ページの間に挟まれた完全な吐息に
そっと触れる
透明な鉄線の犬が走りぬけ
ノルウェーの青銅の香る断崖が揺れるたびに
歪な窓辺の感情を抱えた
海の底へ落ちていったはずの
赤い手袋が
また私の軽やかな鎖を掴みに帰ってくる
「あたしの秘密は贋作だわ。いまになって仕事を調整して、
わざと季節の風邪をひいて、あんたの城壁を引っ掻いてやるわ」
貸与された筋繊維を剥き出しにした
その犬たちは語るのだ
夜になる
舞曲の羽毛の譜面は
湿った結晶体の上空でひらき
鳥たちがピアノの音で鳴く
光る糸で結ばれた無数の前立腺たちの
ゆるやかな舞踏の足取りが
北風の羊毛を縫い合わせる
炎を刈り込む
その作業の孤独
しかし懐疑的な気晴らしが
無言の夕べをもたらすとしたら
私たちの熱心な仕事
灰の山の奥の最初の泉は
素朴な歌をうたう
そのたびに清潔な氷は
忘れかけた古い祈祷師の仕草を
思い出してしまうらしい
部屋ではこういう詩を読んだ
「印刷工場に問い合わせた結果
廊下の内面は検査に引っかかった
頭が太り
胴が痩せ
手首が太り
陰茎と足の親指が痩せたのだ」
清潔な氷
それは尊重されたハエにマスカットを移植することであり
おぞましい愛撫の感情を絵画にしていく作業であり
ありとある慣用表現を椅子に座らせ
薄闇の中で催眠術にかけることである
清潔な氷
そのような皮膚
そのような営みと嵐の決定的な試み
彼は縞模様の液状化した視点をちらし
曖昧模糊とした南の国のテーブルクロスを想う
その青年たちの臓物の内部にある
敢然としたアルペジオのような
砂の気配が
獣たちの言語に翻訳されて
静かに高鳴る
長い現実が痩せる
火打石を食べる
青白い毛の生えた指が溶ける
音楽がやむ
私はひとりで焼かれた畑の胴体に座っている
雪は柔らかい巻貝の代用品として
肩に降り積もる
舞曲の終わりに
そっと差し込まれた
淡い青の
計算された肺の中の退廃のような
余白が
どこか遠くの国の人の
耳の中の奇妙な傷口で
少年の微かな
ほとんど聞こえない笑い声として
凍り付くことなく
存在する
そのような気配だけが部屋に残された