土の中に種を見つけることからそれは始まる
ホロウ・シカエルボク
怨霊は穏やかに、奈落の底はなだらかに落ちる、誰もが気付かないうちに二度と這い上がれないところまで落ちてしまう、そしてあらゆる拷問の餌食になる、あの世の目的は別にある、天国だの地獄だの信じる必要は無い、あの世は再び生まれ来る時の為に、あらゆる感情を魂に植え付ける為にある、そして魂は生まれ変わる、俺たちは皆過去に起こったことを知ってる、輪廻転生を何度繰り返していてもさ、すべての事柄を肉体が記憶している、それは絶対に開けることが出来ない空間に閉じ込められている、だから俺たちの誰もがそのことを知らないままに生きて、そして死んでいく、でもそれに気付くことが出来る人間がたまに居る、俺みたいなやつさ、俺はいつからかそれに気がついていた、そこに何かがある、そこから何かが発せられている、それは俺の身体に様々な影響を及ぼす、良い作用を起こすこともあるし、悪い作用を起こすこともある、良いものだと思えば悪いものだったり、その逆も然り、俺は初めからそれに気づいていたような気がする、初めからそのことを知っていたのだ、生まれて早々に死にかけたことも関係しているのかもしれない、二歳ぐらいまでは骨と皮だけの生きものだったよ、まるで思い出すことは出来ないけれどね、そう、おそらくは記録されている、すべての出来事が…肉体で感じることには限界があるだろう?剥き出しの魂で感じる時にはそれがない、だからその間に起こったことはすべて記憶することが出来るんだ、肉体を持っているときよりもずっと確実に、鮮明にね、そうして生まれて来たことを俺はきっと、生まれて間もない頃の死の予感の中で感じ続けたんだろうな、あの時にきっと何かを見たんだ、誰かが後ろから俺の肩を抱いて、耳元で何かを囁いたのさ、この世の理を、そのすべてをね、俺はきっとそれを思い出そうとして生き続けているのさ、どんな局面になっても俺が次を選び続けるのはきっとそんな理由からなんだ、お高くとまりたくてこんなことを続けているんじゃない、俺の内奥は飢え続けている、常に刺激を求めている、整理整頓された生半可なものなんかじゃない、剥き出しのものさ、魂に直接語りかけて来るくらいのインプットを常に求めているんだ、次第に俺はそれを自分で作るようになった、その方が早いんだ、俺は幸いその時求めている感覚にちょうどいいものを打ち出すことが出来るからね、ステレオのコードみたいなものさ、受け取る側と発する側は両極にあって、それが交錯するまでには少しタイムラグがある、昨日書いていたものが育てるのは今日の俺が書くものさ、俗に言うリアリズムなんてものは、現在しか見てはいない、本当のリアルは、過去にも現在にも未来にも存在する、その中をどう生きるのか、何を考えるのか、何を手にして何を捨てるのかそのすべての選択がリアルというイズムでなければならない、リアリズムなんて嘘っぱちさ、もうそんなもの、ソーシャリズムとほとんど変わりがないじゃないか、そうは思わないか?楽に生きてる連中の装飾物みたいなものになってしまっているのさ、リアルっていうのは魂のことだろ?俺はそう思っているよ、人間に生まれて、人間のリアルを語るのなら、魂のリアルを語るべきだろう、そうじゃなければ人間に生まれた意味も無いってことになる、ソーシャリズムの付き合い飯で汚れた歯を爪楊枝で突っついていればいいさ、そんな人間は地図を見なければ自分がどこに立っているのかもわかりゃしないんだ、俺は集団でこそ成り立つ論理なんてものに何の意味も感じなかった、そんなものは始めから共同体を維持する為の理屈でしかないんだよ、一人の人間がきちんと現実を見つめて生きていくことの役には立ちはしない、俺は時間を無駄にしたくないんだ、常に自分の見つめるべきものを見て、感じて、その都度都度の結論を糧にして行きたいのさ、真面目な話をしているんだぜ、俺は税金を払うことを誇りに思ったりしたくないのさ、別に、群れて生きることを悪いとは思わない、俺をそこに巻き込もうとしなければ俺はそこにどんな感想も持つことはない、でも、彼らは自分から目隠しをされに行って、盲目になって喜んで歩いているみたいに見える、これが大事、あれも大事と手渡されて鵜呑みにして、従順も反逆もその枠の中だけのことさ、考えてもみな、そんなもののどこにイズムなんて存在するんだ?俺はいつの間にか生活の中で書くことをなるべく優先することにした、そうしないと終わらないんだ、果てしなく続く流れの中に居ると…今日の分を消化しておかなければならないと、そんな気持ちに急き立てられてしまうのさ、そうすると余った時間は存分に楽しめるようになる、その比重はどんどん増え続ける、どんなに水を飲んでも渇ききっていて、また次のグラスを手に取ってしまう、きっと生命そのものを消費しているんだ、その証拠の渇きなんだろうな、新たな一杯を飲み干して俺は笑う、随分と長くこんなことをやってるなって、おかしくなってしまうのさ。