隣のトロ
りつ
隣のトロ取ろう
とっ取ろう
宮崎駿監督の「隣のトトロ」の下町人情風にアレンジした映画が遂に完成。
高知劣監督 「隣のトロ」。
※
年金支給日に、2ヶ月に1度の贅沢、回転寿司にやってきた。
私の前にはシメサバや卵焼き、イカ、エビ、マヨコーンと言った質素な寿司ネタが並んでいた。
それでも充分満足だった。
いつもの基本はおかかごはんなのだ。
ゆっくりと、ささやかな贅沢を味わっていると、
となりの席に、でっぷりと肥って歯を剥き出しにして笑っている大柄な中年男が座った。
座るなり男は言った。
「親爺、大トロ中トロ、トロ30貫とりあえず」
いったいどんなお大尽なのか驚いていると、
男は次々にトロを食べながら
「ここのトロは不味いねぇ、脂が全く乗ってない」
と文句を垂れ始めた。
それを聞きながら、私はどんどん怒りが込み上げて来た。
私だって、本音はトロを食べたいのだ。
なのに...なのに!
男が愉快そうに文句たらたらでパクパクとトロを口に放り込むのを見て、
私は静かに決断した。
「親爺さん、大トロ中トロ、100貫ください。
店のみんなに。私のおごりです」
男の不平不満に辟易してた客たちは、
拍手喝采した。
「味の分からん客に、ここのトロは勿体無いよ!
ここのトロは安いのにべらぼうに旨いんだ!」
そう。1貫、800円で、大間の鮪のトロを出してる。
考えられないことだ。
もちろん、隣のトロは知っていたのだ。
嫌味なやつ。
男は顔を真っ赤にして、
「こんな店、二度と来るか!」
とお決まりの捨て台詞を残し、去って行った。
客の1人が歌い始めた。
隣のトロ取ろう
とっ取ろう
店内は爆笑の渦に包まれた。
良い気分だった。
例え明日から、3日に1度の塩むすびを食べることになろうとも。