化石の物語
月乃 猫
心を鞭打つ海風を欲する日
波音もきびしく鳴り
冬が眠りにつくまえに
海をめざす
息を荒げ 山の稜線を進みます
遠く人知れぬ
潮騒がむかえ
曇天の 色をうしなった
風も連れ立ち やってきた
お久し振りです
足跡さえない砂地は、
ユリの 海砂の白さ ひろがり 火山岩を
島のようにちりばめている
遠く あそこはすでに人の住む町
億年の旅の記憶
眼下に、水際に息絶えた
痛みの 一頭のクジラが亡骸を横たえ、
海の浸食地 切り立つ谷もまた海峡だったのです
温かな砂の感触をたしかめ、
傾いた蒼い空を 翼竜がとんでいく
それが、クジラの瞳がとらえた最後の光景
今も波の音は、止まずにいます
始終、逆なでる
永遠の波 単純な繰り返しを
砂浜に 眠る海獣の耳にひびき、
あなたは、化石におわる
年月の長さを その硬質の色にしるし
海だったのは
だれも信じることがない昔
隆起など 数えきれない時のおかげで、
時は、いつも
生あるものの命を 値踏みしては、
選択に 知らぬ間に決められた
終焉の名札を付ける、
誰もが避けられないのです
あの時の古代魚たちの群れの鱗の光か、
クジラたちのわらい声か、
それは、青い天蓋にひろがり、
さっき私の横をとおり過ぎて行きました