東京組曲
室町 礼
東京はぼくの
第二のふるさと
ビルやネオンがわが山で
流れる車がわが川で
電信柱の林のなかの
小さな小さなアパートの
小さな小さな台所
ナベを振ってもお尻が
ごっつん
皿を洗えばしぶきが
スプラッシュ!
せまいんだよ うヘッ
キツイんだよ うおッ
つらいんだよ うわッ
マナ板のように叩かれて
へこんで
つぶれて
汚されて
同じことの繰り返し
それでも洗えばもとに
戻るんだ
それでも洗えばもとに
戻るんだ
●ぼく(室町 礼)
新宿歌舞伎町の入口アーケード下で
若い女性に声をかける。
「あの、もしよければお茶でも」
●若い女性
「いいわよ」
二人でマンモス喫茶『王城』に入る。
●ぼく(同上)
「早速だけど、岸政権ってどう思います?
安保法案ってさ….最悪でしょ」
●若い女性
「あなたそんなに岸首相に興味があるのでしたら
あなたが総理大臣になったら?」
怒って出ていく。
●ぼく(同上)の独白
東京へ集団就職して初めての休日の
ナンパのはなし。ほんとうは世間話でも
したかったのに中卒で孤児院育ちのぼくは
なにを語ればいいかわからなかった。
ウブすぎる。
ドジすぎる。
東京が第二のふるさとで
浅草─渋谷というけれど
新宿と池袋が大好きで
だれかと言葉を交わすわけでもないけれど
ざわざわ
ごちゃちゃ
ぞろそろと赤の他人のにぎわいが
第二の故郷の名物だから
さまよう森のように独りで歩く
ときどき切なくなるけれど
ウンメイを受け入れるのが
ぼくの仕事
ぼくの試練
ぼくの祈り
孤独も馴れれば清涼剤
ちらほらとふってきた
ガラス屑のような粉雪を
手で受けて
さあ
踊れよ 東京組曲