抒情詩 Ⅲ
岡部淳太郎

空に漂い、海に溶け、風に流され、火に燃やされて散
乱し、この世のすべてにあまねく広がるもの、石の頑
なさで記憶され、水とともに流れて人の喉を潤し、女
の滑らかな肌のようにつややかで、光とともに輝くも
の、物語のように語られては、時とともに受け継がれ
て、どんな戦乱や流血の悲惨のなかでも変わらずに在
って、それ自身のなかで巡りながらすべてを受け入れ
るもの、子供のように純粋で、うたわれることで拡が
り、人の耳をくすぐっては悪戯して、振り返ってはま
た還ってくるもの、土のなかに沁みこんで春に咲く花
の養分となり、花粉とともに虫に運ばれては別の花を
同様に咲かせるもの、子供たちにも、大人たちにも、
その狭間の青さにある者たちにもやわらかく眺められ
て、清冽な飲料のように飲み干されるもの、あるいは
晴れた日の輝き、曇った日の迷い、雨の日の悲しみ、
空に漂い、海に溶け、風に流されて、在ることですべ
てを赦すもの、うたのようだ、すべて私たちの、この
つくられた世界にあるうたのようで、情をべて――



(2022年3月)


自由詩 抒情詩 Ⅲ Copyright 岡部淳太郎 2025-11-17 11:50:24
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