Alice
月乃 猫


冬が
にじみはじめ、
すべての あらゆるものを
灰色に染めあげる、

陶器の カップをおく音に
ためらい
振り返る

キッチンのテーブルに妹がいた
久しぶりに見る姿
うつむいた テーブルクロスの
格子の つなぎ目に落とす視線は、
静かで、

いつもの
淡い色のセーター 母が手編みの
妹のお気に入り

――― 元気でやっていますか
    随分と 久しぶりですね

そうと 分らぬくらいの小さくうなずき、

会話は いつもの一方通行で、
答えを期待しない

わずかに口元を上げるそのしぐさで、
微笑みの 妹の気持ちを量り知る

――― 山里も朝夕はもう寒くて
昨日は、毛布を重ねて寝たんだよ

季節の話は、
真実らしきものを避け
通り道の安堵をもとめ、
 
ぼさぼさの髪
じれったい会話

――― まだミントが摘めるの
    ミントとカモミールのお茶はどう

妹のお気に入り 今も変わっていない
そう思うようにする

とまることがない時間に
妹の姿は、抗い
時間の遡行を
確証する

眠れぬ時をささげた
姿をかえぬその存在は、
失ったものを
取返したくなる 


あたふたと
格子のチョキのウサギがはいってきた、
古ぼけた懐中時計を見ながら、

――― 遅刻、遅刻、いそがないと、
    はやく、はやく

少しだけ
向けた妹の顔に
もう行くのですか、
まだ、たくさん話したいことがあるのに、

細身の背が部屋を後にする

こらえ切れず
裸足のまま妹の後を追うだけ
妹とウサギは、振り向きもせず
庭のはしの小さな穴の中に
消えた


足をとめ
でも、灰色の世界と
おさらば、なら
だから 小さな穴に 不思議な世界へと

身を・・投げた・・







自由詩 Alice Copyright 月乃 猫 2025-11-16 19:14:18
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