豆花
そらの珊瑚
十月だというのに夏のなごりの暑さは
公園に夕暮れが訪れても続いていた
娘とふたり
野外フェスティバルに来ている
紙に書かれた手書きの進行プログラム通りに
何人かの歌手が次々と登場しては演奏し
長椅子にてんでに腰掛けた客は耳を傾けている
幕間に屋台を覗いてまわる
台湾料理のお店で
ちょっと心ひかれたひんやりスィーツを買う
「豆花(トウファ)」ワンパック700円
中には
豆乳を固めた桑色のプリン
小豆
櫛形にカットされたイチジク
マンゴーなどが
透明なシロップに満たされたカップに
愛らしくひしめきあっている
食べたことはないけれど
もうこれは美味しい予感しかない
席に戻って娘も食べたいというので
添えられていた木のスプーンで
彼女の口にプリンを運ぶ
「美味しい!」
娘とは食の好みが合う
というか
自然と親子だから似るのだろうか
それが祝福なのか呪いなのかは知らないけれど
おとなになった娘に餌付けするように
なんどもスプーンを運ぶ
もういいよ、と彼女は少し苦笑いした
さらりとした優しい甘さ
シロップを飲み干しても
口の中に甘さは残らず
滋養だけが残る
そんなような味
夕暮れは
気づいてしまうと足早に暮れてしまう
さりとて
気づかないふりもできず
それはいつだってそうだったけれど
ふりむけば立ち見の客も増えて
小さな月はのぼり
アンサリーの澄んだ歌声
この夜のすみずみまでもを満たして
思い出は上書きされる