be here now
ホロウ・シカエルボク
通り過ぎた日々がただの過去かそれともどこかで書き換えられた記憶かなんてことは誰にも断言出来ないだろう、人生など結局はなにひとつこれだと言い切れるようなものは無く、だから人は安心出来るための安直さに依存したがる、金銭、肩書、抱いた数、抱かれた数、どうしようもない、どこかに書いてあるような価値観を読み上げているだけのイズムを成就だの成長だのとしたり顔で話すなんて御免だね、そんな人生を受け入れるくらいならここで喉元を掻っ切ってみせるよ、血飛沫はきっとお前に降りかかるだろうね、その粘度と温度と重みにお前は悲鳴を上げてその内に発狂し失禁するだろう、でもそれは俺が抱えている狂気のほんの一部に過ぎない、でもある意味でそんな光景、行為にはひとつ、俺にとって理想的な詩作であるという側面が確かにあるよ、肉を掻っ捌いて血液も込みで白日の下に曝す、俺が人生を賭けてやろうとしているのはまさにそういうことなんだ、もちろん、ある意味でということだけどね、こんなこと、ずっと俺の詩を読んでいる連中にはわざわざ話すようなことでもないだろう、やつらはきっとそれを知っているはずさ、言葉に出来るかどうかという部分は別にしてね、それに似たものをきっと感じ取っているはずさ、血飛沫を浴びるという概念は詩人にとってはきっとエクスタシーみたいなものなんだよ、そう、俺は個理屈なんか垂れる気は無い、表現とは快感原則だ、だからこそ貪欲になれるのさ、そうは思わないか?そこには途方も無い快楽があるんだよ、意識を完全に飛ばして、違う感じ方、違う景色へと連れて行ってくれる、ここでその現象についてすべてを語ることは出来ない、それはあらゆる側面から多発テロ的に展開されるからだ、おそらく俺自身もそのメカニズムを完全に掴むことは出来ない、ただその蠢きによって得られるものを誰よりも知っているというだけさ、いや、これは別に俺が特別だというようなことを言いたいわけじゃない、ただ俺はただただそれをやり続けて来たから得ることが出来た、それだけの話なのさ、シニカルさや理路整然とした構築になんの興味を示すことも無く、必要な動作だけを延々繰り返してきたんだ、つまりそれは自分がなにをすればいいのか本能的に知っていたということなんだ、それが何故かはわからないよ、たまたまかもしれないし、必然だったのかもしれない、もの凄くカンが良かったのかもしれないし、超次元的な存在によって導かれたのかもしれない、でもさ、それについてあれこれと考察してみたところでなんになる?これは絶対に答えを出すことが出来ない問いなんだ、だったら放っておいてひとつでも多く書いた方がマシだね、そう思うだろ、一生なんて結局のところ瞬間の蓄積なんだ、そしてそれは常にどこかで認識しておかないと必ず見失ってしまう、それが残るのは感覚の僅かな領域と、肉体が感じるダメージだけなんだ、肉体のことは取り敢えず置いておこう、そこについてあまり話せることは無いからね、俺がしたいのは精神の話なのさ、精神のある領域における瞬間の蓄積というのは放っておけば勝手に溜まっていくというものでは決してない、それは自分が無数の瞬間の中からほんの少しかすめ取ったものを投げ込んでおく場所なのさ、それが時にはこうした羅列に変わったり、ある種の悟りへと導いたりする、修験道の行者たちが自らを苦境に投げ込むようにね、あれはきっと生きた時間、瞬間を身体に刻み込むためにそういったことをやっているのさ、西洋の宗教にもあるだろう、片腕を上げたまま過ごすとか、顔に何本針を刺すとか、あれはそうすることで自分の道程というものを身体に刻み付けているのさ、時の流れ、時間の経過に意識的になるということ、ただ生きているだけでは環境に流されるだけになってしまう、人間という生きものはみんな、揃って同じことをするのが好きだからね、そういうふうになってしまうんだよ、そういうふうになってしまうんだ、無意識的にすべてを受け入れて流されているばかりだとね、彼らがやたらと真実だの現実だのという言葉を連呼するのは後ろめたさからなんだと俺は思うよ、そうしないと足元が崩れそうで怖くてしょうがないのさ、だってそれは躍起になって手に入れた自分だけのスペースでは無いからね、フリーWiFiみたいに誰でも乗っかれて共有出来るものさ、そこでみんなで同じものを見て、同じ価値観を共有して、そうしてだんだん自分自身のストレージを小さくしていくんだ、彼らにとって自分なんてきっと、自己紹介の時に喋る言葉が全てだぜ、ほとんど出来ている流れにコバンザメみたいにくっついているだけなのさ、だからありきたりのことしか喋れなくなる、本当の意味を、言葉を喋りたいと思うのなら自分自身の居場所は自分で作り上げるべきだ、そしてそれは入口に過ぎない、俺が本当に欲しいものを手に入れたのなんてつい最近のことさ、人生の半分以上を注ぎ込んでだよ、そこからようやく始まるんだ、俺は俺という人間の根幹を言葉のオブジェにして差し出す、生きている限りいつまでもさ、そしていつかそいつらを残して永遠に居なくなるだろう。