色づき色あせて
ただのみきや
色づき色あせて
歌うように踊るように
散る 桜の葉
どの葉も負けじと
秋風に身をまかせ
散って 散りつもる
もうすぐ雪が降る
降って 降って
降りつもる
こどもらの歓声も
臨終の悲しみも
つぎつぎ白く上書きされる
春には花が咲く
北国の春は初恋のよう
印象ばかり眩くあっという間
花は咲き競い
人を鳥を虫たちを酔わせ
散る 笑うように 泣くように
季節の車輪
歳月をどこまで運ぶのだろう
岩山のように立ちはだかった未来も
秒以下の砂塵と化し
足跡を消してゆく
汗や涙すら輝いていたあの頃をも
あれほどの喜びや悲しみが
遺跡や化石のよう
つぎつぎ埋もれいまは記憶の古層
時は触れた先から砂となって崩れ
いまの暮らしが足跡を記し
明日の労苦が上書きをくりかえす
生きることは
埋葬すること
ちっぽけなわたしのすべてが
埋葬され切ったとき
その総体はどれほどだろう
発掘されることは決してないが
なかったことにはならない
永遠のどこかに埋もれたまま
完全なる「わたし」
エジプトのファラオより
楼蘭の美女よりも
死に封印された生の完成形
目覚めれば
季節の車輪はカタコト
色づき色あせて
歌うように踊るように
つらつら つらつらと
ことのは散らす 秋
(2025年10月26日)