裸の枝に実る柿
菊西 夕座

裸の枝に実る柿

菊西 夕座


季節が頭をめぐらせて仰ぐ空へと囁くたびに
懐かしさは生まれた日の先まで枝を伸ばして葉を落とす
ひと昔まえの世代にまで影は大きく成長してしまい
私という範疇を超えて郷愁は人々にまで深まっていく

年を経るということの実りを柿の木に重ねて胸は色づく
葉は減りながらも増していく哀切に過ぎた時代が呼応して
裸になった寒々しい枝に目も鮮やかな朱色の灯を散りばめる
そばに古家があれば一段と風情を高めて晩秋を尊く潤わす

『翳りゆく部屋』で歌われた「別れの気配」を漂わせ
柿の木の背後から宵闇が恋人たちの高層階にまで忍び込む
「ランプを灯せば街は沈み 窓には部屋が写る」ように
「わたしが今死んで」暗くしても部屋の「輝きはもどらない」

死に瀕するような痩せた枝の先から別れが熟して朝を迎える
色あせながらも変わらない窓に干し柿がカーテンをかけている
あの窓の奥にこそ真新しい時代にはない閉じられた青春がある
「わたしが今死んで」暗くしても輝きにつながれる部屋がある

振り向くと柿の皮をむくあなたが椅子に腰掛けてほほえんでいる
皮がむけるたび皿へと増えていく裸の果実がかつての二人ならば
もはや裸で抱き合うことがなくても頬張って通じ合えるから
生きた思い出の甘みもあれば残る幻の渋みも豊かな人生だから


自由詩 裸の枝に実る柿 Copyright 菊西 夕座 2025-10-25 10:34:44
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