裸の枝に実る柿
菊西 夕座
裸の枝に実る柿
菊西 夕座
季節が頭をめぐらせて仰ぐ空へと囁くたびに
懐かしさは生まれた日の先まで枝を伸ばして葉を落とす
ひと昔まえの世代にまで影は大きく成長してしまい
私という範疇を超えて郷愁は人々にまで深まっていく
年を経るということの実りを柿の木に重ねて胸は色づく
葉は減りながらも増していく哀切に過ぎた時代が呼応して
裸になった寒々しい枝に目も鮮やかな朱色の灯を散りばめる
そばに古家があれば一段と風情を高めて晩秋を尊く潤わす
『翳りゆく部屋』で歌われた「別れの気配」を漂わせ
柿の木の背後から宵闇が恋人たちの高層階にまで忍び込む
「ランプを灯せば街は沈み 窓には部屋が写る」ように
「わたしが今死んで」暗くしても部屋の「輝きはもどらない」
死に瀕するような痩せた枝の先から別れが熟して朝を迎える
色あせながらも変わらない窓に干し柿がカーテンをかけている
あの窓の奥にこそ真新しい時代にはない閉じられた青春がある
「わたしが今死んで」暗くしても輝きにつながれる部屋がある
振り向くと柿の皮をむくあなたが椅子に腰掛けてほほえんでいる
皮がむけるたび皿へと増えていく裸の果実がかつての二人ならば
もはや裸で抱き合うことがなくても頬張って通じ合えるから
生きた思い出の甘みもあれば残る幻の渋みも豊かな人生だから