食べる、もぐもぐと、食べる
山人
もぐもぐ、もぐもぐ、はたして
そんな音が聞こえるのかどうかは
世間的に問題にならない
たぶん、ごはんを食べるとかそういったイメージ
さして食欲もない昼の食事は
きっともぐもぐという形容詞が似合うだろう
何らかの感慨を持ちながら
得てしてそこに厭でも思考が訪れてくる
私と妻によって殺された
名も無く、ただかかれてしまった
青白く佇む妻の顔を見ることもなく
私は爛れた空間に居続けるのみだった
もぐもぐとひたすら私は無言で咀嚼を続ける
舌は繰り返し唾液を分泌し
愛液のように促している
米粒はその形を維持しながら
次第に歯に踏みつぶれていく
東京の郊外のとある街のアパートの
積み上げられたゴミの山の一角に
おまえは棲んでいた
病的な脂肪が体を覆い
パンク寸前のアニメの豚のようになって
思考回路がぶつ切りされた脳で
見えない糸を探っていた
私たちに希望はない
そう思いながらもひたすらに
もぐもぐと噛み続けた
政では、薬物の快楽のような世界が蠢き
かたや、頑なに真利だけを貫く党首がいる
たがいにそれらは混沌としているだけで
生まれるものは何もない
この先のことは分からない
わからないけれど、もぐもぐと
こうして食み続けるのだ
視線を移せば越冬害虫どもが
狂おしく淫らな羽音を打ち鳴らしている
最後の飯の塊がゲル状になり
喉を通って胃に落ちていった