水精Ⅲ
本田憲嵩


青い水面に溶けこんでいる。陶酔。逆さまになったふたりの不定形。ぼくらの身体はまるで揺らめく塔のように、どこまでもながく伸びてゆくように、そのうねりをいつまでも繰りかえしてゆく。それは途方もなく永いあいだの抱擁、のようにも思えて。やがて水の中へととても穏やかにふたりは沈みこんでゆく。逆さまになったままなにも言葉を発さないまま。そこに色あざやかな不意の熱帯魚たちが無数にとても賑やかにやってきて、まるでふたりを祝福するかのように、ひとつの色とりどりの輪となって、ふたりの周囲をぐるぐると遊泳しはじめる。君のながいながい頭髪もまるで大きな魚の尾びれのようにゆらゆらと揺らめきはじめる。そんな黒髪のマーメイド。――ちいさな熱帯魚たちが君の下半身の周りを取り囲みはじめて無数のウロコとなってゆく。



自由詩 水精Ⅲ Copyright 本田憲嵩 2025-10-19 01:42:53
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