待ってるガール
本田憲嵩

少女はずっと灰色のくもり空を見上げていた。そのちょっとした公園に設置された、幼児用すべり台の踊り場に腰かけながら、その手にはてるてる坊主の白い胴体を握り締めて。その羽織った白いカーディガンとすこしながめの頭髪をつよい風にうねらせながら、「待ちたいんです」って。「いったい誰を?」、「うーん誰かな?」って、そのとてもきれいな顔だちとおおきな瞳で言う。彼女はいつか灰色の空のくもまから太陽が顔を覗かせるのを待っているのだという。けれども、きょうこれからの天気予報は雨、風はますます強くなるばかり。それどころか小雨もなんだかぱらぱらと降ってきた。――かと思うと、突然、灰色の空の厚いくもがまるでパン生地かなにかのように裂けてきて、こがね色に輝く太陽がその顔を覗かせた。その目映いひかりを一身にあびて、少女はまるでエチアルコールかなにかのように徐々に揮発してゆく、ついにはその姿をかんぜんに掻き消して――。
――待ち人はもしかして自分だったのか??いやいや、そんなわけあるか。でも、ひょっとしたら?彼女の存在に気づいてしまい思わず声をかけてしまったから??そんなことを止めどなく考えながら雨の降りしきる家路を急いでいるぼくの掌の中には、彼女のあのてるてる坊主が握り締められていた。



自由詩 待ってるガール Copyright 本田憲嵩 2025-10-14 02:16:26
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