尊さ
道草次郎
Aさんは
ぼくよりいくつか歳上の事務員さん。
あれもこれも
うまくできないこのポンコツを、
見放さないでいてくれる。
「こうした方がいいですよ」と、
さりげなくアドバイスをくれる。
ぼくのちっぽけなプライドを
傷つけないように
言葉を選んで。
愚痴をこぼしても、
言い過ぎることはなく、
褒めるときも、
決して持ち上げすぎない。
パンダが好きで、
上野動物園に行ったりする。
イチゴに目がなくて、
ボーナスが出ると
しあわせそうに頬張るらしい。
独身で、
眼鏡をかけていて、
小ぎれいで、
ときどきリュックを背負っている。
朝、
ぼくが先に来てゴミを捨てていると、
かならず
「ありがとうございます」
と言ってくれる。
お父さんの失敗談を話すAさんが好きだ。
そして、
昔、少し心を病んでいたという話を聞くと、
ぼくは何も言えなくなる。
Aさんは、
ふつうのことをふつうにとらえる人。
むりに複雑にも、
ばかに単純にもせず、
何事も自然に受け止める。
ノーベル賞だとか、
サム・アルトマンだとか、
そんな名前が飛び交うこの時代に、
ぼくは思う。
Aさんは、
たぶん、尊い存在なのだ。