背中
たもつ



三叉路の交差点改良が終わり
夏はまだ蒸し暑かった
誰かの投げた石が
東西に流れる二級河川の水面に
小さな波紋を描く
あっ、魚
勘違いした人が指を差して
本当だ
と、隣の人が相槌を打つ

記念病院の裏手の老夫婦は
長男の新居へと引っ越した
かつて二人が作った家には
風が隙間なく住みついている
世界の至る所に午後があるのなら
今この街にもありふれた
そのひとつが落ちていた

虫かごと網を持った少年が
ビルディングしかない遥か遠く
都会の方へと走っていく
その背中には
物語の続きのような
カブトムシがしがみついている



自由詩 背中 Copyright たもつ 2025-10-07 05:16:20
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