刑事コロンボ、立原道造の詩「のちのおもひに」を追う
菊西 夕座
夢はいつもかえつて行つた 山の麓のさびしい村に
コロンボはホシを追っていった 山裾にレインコートの裾をかぶせ
水引草に風が立ち
かつての慶事から結び目はほどけ
草ひばりのうたひやまない
胸騒ぎを刑事も抱えて
しづまりかへつた午さがりの林道を
一直線に追跡の背中で切り拓く
うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
コロンボの心臓は脈を速め 拳銃はじっとしたまま
――そして私は
そして犯人は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
押し殺したものを 愛憎を 毒を 狂気を 自己実現を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた・・・・・・
だれも到達できないと自惚れて 騙りつづけた・・・・・・
夢は そのさきには もうゆかない
ひとり コロンボだけが ホシを知る
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
そしらぬふりで かぎつけてしまう
忘れつくしたことさえ 忘れてしまつたときには
裏で結び付いていた 弔事の糸さえ捕まえる
夢は 真冬の追憶のうちに凍るであろう
足が 追跡の果てに付いてしまった村で
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
己と 死をむすびつけた コロン星を見つけ
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう
星座に組み込まれていた啓示をたどりかえして
※奇数行は全て、立原道造の「のちのおもひに」を引用しております。