あさの電車
リリー

 二両編成の電車は定時を守り
 JRに乗り継げる駅で吐き出される乗客
 足を踏み入れる車両には
 見知り顔の人もいる

 まばらな空席のあるロングシートで
 深く腰を預ける彼らはただ目をとじている
 そのほかには、どんな在り方も
 あり得ないのだろう

 日の差す秋ぞらの下、
 夜の雨があがった鉄道草のすがすがしい緑
 そのところどころで
 連火の様な彼岸花が咲いている
 線路わきの真赤な花に
 気持ちはきりりと張りつめたりする
 今年も三ヶ月を残すだけだ

 新しい年になって何か変わっただろうか
 去年も同じようなことを思った
 一日ごと積み重なってゆく
 新しい過去が今日も
 それは静かな音で白い泡と一緒に回る
 洗濯機のようでありたい
 洗濯物が多いとひっかかったり
 もつれたりして回転もしないから

 いくつか停車駅を過ぎて行くと
 ドア付近へ立つ人はいても
 つかんでもらえる手のなくなって
 そこにあることの所在無さげな吊り革が、
 規則正しいテンポで揺れている




自由詩 あさの電車 Copyright リリー 2025-10-05 10:07:29
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