夏の故郷
りつ
私が産まれた九樹の家は
もうない
それは不動産上
他人名義となっただけなのだが
喪失感は計り知れない
一年に数回帰った故郷
夏は藺草の香りの草いきれ
滅多に食べられない
インスタントラーメンと
レトルトカレー
スクール水着で用水路を泳ぐ
たまに三本木の橋を渡ってやって来るご近所さんと
縁側で茶飲み話
夜空を埋め尽くす星、星、星を
摘めるのではないかと
両手を拡げた
今は昔の物語
蕨の丘は
草ぼうぼうの耕作放棄地となり
幼馴染みと遊んだ堰も
思い出だけが亡霊となって
彷徨っている
藺草もすっかり抜かれてしまっているだろう
あの大好きな青臭い香りが
鼻を擽ることは
もうないのだろう
分かっていても、