夏の故郷
りつ

私が産まれた九樹の家は
もうない

それは不動産上
他人名義となっただけなのだが
喪失感は計り知れない

一年に数回帰った故郷
夏は藺草の香りの草いきれ
滅多に食べられない
インスタントラーメンと
レトルトカレー
スクール水着で用水路を泳ぐ
たまに三本木の橋を渡ってやって来るご近所さんと
縁側で茶飲み話
夜空を埋め尽くす星、星、星を
摘めるのではないかと
両手を拡げた
今は昔の物語

蕨の丘は
草ぼうぼうの耕作放棄地となり
幼馴染みと遊んだ堰も
思い出だけが亡霊となって
彷徨っている

藺草もすっかり抜かれてしまっているだろう
あの大好きな青臭い香りが
鼻を擽ることは
もうないのだろう


分かっていても、



自由詩 夏の故郷 Copyright りつ 2025-10-02 01:32:46
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