tailagoon
あらい

わたしもそうであるように
かりそめのうたのように

罅に食い込んだ
潟を
中心とする
もとは海だったが
どれも残さず
しずかに抱いておく

耳のない旅行者を思い起こさせ
あとにはなにもなかった

だから たすけて また
あたたかい うちに 手放して

通りすぎろ

かさぶたになるまえの
おとしごだけ埋め立てられた
くびすじを一周する
藪に自惚れるアパートのまえ
とおく見守ることができたなら
過ぎる鼓のうら、砂粒をとびぬけて
握りしめずに、ひらいた手でわたれ

引かれた街灯がよるを拒み
手首よりもさきに折れ曲がり
色褪せた蟻がぬるまゆを受けて
すりガラスの向こうから
指の間を追放されたキッチン
刺青を縫いこむそぶり困らせるなら
湖畔を巡るあきらめを撫でておく
心地よく転じて、そのまま流せ

ハヅレ玉のにほんめは
緩慢な睡りへ

あなたにはそうみえる

虹が巣立つ
震わせる 波打つ、それは

リキッド・ムーンの針に
砂のないオペレッタをかかげ
深海に義体するロンド
しょうねんたちの口ではない
花から泄れた、ノイズも
梢なくした岸を砕いただけ
ばらまかれる。きえるものを
いえぬまま、やわらかく おれた
駅前広場が 退屈を吸って
膨らむ つり革のうねりを飼う
女たちが 音もなく 傘をさして
また冱えない晴れに触れようと

卵色のときかたに 或ることの不可知
すべてそのままに ほうき星は落ち
喉をひらく 薄暮、この離れでかえろ

虚像は消され
笑い声だけが歪み
空に逃げる
流転するほんの一ページに
たった今、
なにも持たずに
数ミリだけ 羽化してゆく

それはきっとあなたのことではない

もうすこしさめていても
ここを歩け
ただ通過せよ
破砕の横で、いる
匂いが 四つん這いになり
なぞるだけにしておけ


自由詩 tailagoon Copyright あらい 2025-10-01 19:18:39
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