レシートの亡霊
atsuchan69

任侠とロマンは、
彼らの得意分野だった
つまり人買い、
産地偽装、
海と陸の物流、
そして廃棄物の処理など

コンテナの積み上がる港から、
数多の流通店舗まで
関わる人と物流、
リアルタイムの流れを追う

今しも赤錆びた貨物車が出発した
――追跡、
高速道路入口の手前で
A社コンビニへ
幾代もの大型車両が停まる
七百坪は優にある駐車場だった
タブレットに、
競合店「マーズ」と表示されている

同一車線先のB社コンビニは、
さらに広い駐車場を持ち、
「信号を渡る直ぐ」の角地だった
競合店「ヴィーナス」
この店の一日は、
レシートの発行で満ちている

A社コンビニのパンの空箱を数える
明らかに、
B社コンビニより空箱が少ない
これは同一車線手前の立地よりも、
駐車場その他、
店舗機能に勝った方が強い
という、
ごく単純な理論を
裏付ける調査結果だった

後発の当社としては、
牛丼チェーンと複合出店する
千五百坪の整形地を、
すでに押さえている

A社コンビニの同一車線手前、 
複数の地主に分筆されていない 
大手薬品メーカーが所有する土地だ

本部の売上予測では、
かなり嬉しい数字も提示されている

賃貸借契約を行う不動産業者と 
店舗を建てる工務店は 
任侠とロマンの、
立派な人たちだ 
仕事に抜かりはない、 
彼らとは幾度も食事をしている

おそらく当社店舗が出店した後、
一番影響が出るのは、
間違いなくA社コンビニだろう
駐車場で人の動きを調べる

午後七時ころ、
白いヤリスが駐車場の隅に停まった
おそらく、オーナーのクルマだ
クルマは男と入れ替わりに
妻らしき女性が乗って走り去る

男は五十代の、小柄な体格だった
白い三角ワッペンのある帽子を被っている

今どきは正式なオーナーの他に、
背中にアートした方々が、
特別に手配したオーナーもいるらしい
ギャンブル等で負債を抱えた、
表の世界から忽然と消えた幽霊たちだ

幽霊は、ピンハネされてこそ生きる

たとえ今の店が潰れても、
幽霊たちには、次の場所がある
たとえばコンビニへ商品を配る仕事も
義理堅い人が会社をやっている
だから心配はいらない

それでも幽霊たちには、休息はない
たとえ恨めしかろうが、
この世に残りたければ化けてでも、
そのように生きるしかない

わたしは、クルマを降りて店へ入る
三つあるレジのひとつに、
白い三角ワッペンの帽子を被った幽霊がいた
缶コーヒーとサンドイッチを買い、
代金をスマホで支払うと
オーナーは、アニメっぽい声で
レシートご入用ですか? と言った

わたしは、いらないと答えた

明け方、バイクの集団がやって来た
ヘルメットを脱いだのは、
就職氷河期で死んだ若いゾンビたちだった
どの顔も、額に白い三角シールがある
彼らはカップ麺やオニギリ、弁当を買い、
輸入チキンの唐揚げを貪り喰う

そうとも。
レシートの亡霊が集う店を作るのだ

それがわたしの使命だ






自由詩 レシートの亡霊 Copyright atsuchan69 2025-10-01 04:21:15
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