秋陽
リリー

 薄群青のみずうみに
 なびく帆が、波に溶け込む光のなかへ
 すべる様に遠のいていく

 老竹色した山並みにいざなわれる
 あのヨットの彼方には
 岸辺など無くて
 爽籟の湖面がどこまでも
 広がっているにちがいない

 やがて一点となって
 眼にキラキラ映る帆の
 見知らぬ人を、湖畔に立ち追い続ける

 秋の香気を胸に吸いこむと
 ほんのいっときの
 微睡みから覚めたような
 肌さむさ

 これからも未知へと続く私の道に
 吹く風の手ざわり
 汗ばむ拘束された労働の
 規則正しい日課をこなす
 ささやかな幸せが
 もう一度、見えない
 希望の水脈みおとなることを願って
 
 視詰める帆は、遠くで
 もうタッキングしていて
 比叡の山が聳える西の岸へ戻って行く
 


自由詩 秋陽 Copyright リリー 2025-09-28 11:54:20
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