眠りのなかの眠り
塔野夏子

霧のような薄灰色のとばりの中
薄灰色のしとね
脱ぎ捨てられた色とりどりの
アルルカンの衣装

   眠りたい
   (僕が)
   (君が)
   (誰が)
   眠らせたい
   (僕を)
   (君を)
   (誰を)

あまりにも語られすぎた
物語の頁は
砂のように崩れ風に吹きさらわれていった

そして語られることのなかった
数多の幻滅は
彼方の空で
まるで黄昏の美しいグラデーション

   眠りなさい
   と
   囁く声
   (僕の)
   (君の)
   (誰の)

薄灰色の褥は
火照りすぎてきた肌を
ひんやりと包む
身を委ねれば
自らの鼓動と呼吸とが
なつかしくはるかなララバイ

   眠ろう
   (僕も)
   (君も)
   (誰も)

深く眠るほどに
脱ぎ捨てられたアルルカンの衣装が
ゆっくりと 色を失くしてゆく




自由詩 眠りのなかの眠り Copyright 塔野夏子 2025-09-27 11:44:42
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