雨宿り
秋葉竹
そういえば、さいきん雨宿りをしてないなぁ
雨の降りはじめの匂いってあるでしょ?
ちょっとだけレモンの香りみたいな
ウソウソ、カビの匂いに似てる
ウソウソ、ま、雨の匂い
それが匂えばすぐ直後に雨が降る
あの匂いのことだよ
そういえば昔は雨宿りもよくしたし
町中でアスファルトの出来立ての匂いも
ところかまわずよくしていたね
夏には
線状降水帯なんて無粋な名前じゃなく
『夕立ち』が突然降ったりして
身も知らない家の軒下を少し借りて
雨が通り過ぎるのを待ってた
それを雨宿りと云って
ま、夏の風物詩だったかな
男の子は弱音を吐いたり泣いたりしない
女の子は弱くても泣いても優しければいい
そんな『性差別』全開の時代
働く、と云う言葉の語源は
「側(ハタ)を楽にさせる」なんだと教えられ
なんの疑問も持たずにそうありたいと想った
くちづけも知らなかった
怒りで人をあやめたいと想うこともなかった
拳をかためて壁を殴ることもなかった
『死』なんて永遠を超えても訪れないと想った
いつのまにやら獣のような鳴き声を憶え
冷たい爪で背中を引っ掻くすべも憶えて
雨音だけが空の水槽に聴こえる街に住んで
悲しみのあいまの微かな息継ぎも上手になり
そしてふと気づくとき、雨空をみあげる
ほおを流れる、雨の雫
そういえば、さいきん泣いてないなぁ
そういえば、さいきん雨宿りをしてないなぁ