コールドスリープ
由比良 倖
『永遠の青』
永遠の青が私の眼を染めて昨日を染めて手帳を染めて
心臓目線で眺めればあのとき街はただ流血を切望してた
絶望に慣れたひとりが絶望に慣れたふたりになっただけです
針のない時計が刻むような音、空の果てまで空は続いて
さらさらと鳴るその音の一粒に入って胎児みたいに眠る
『電子の海』
見つめ合うカメラとカメラ、悲しくて空を飛んでる、ここも空き部屋
眼の前の物が見えないシャーペンの折れた先から神が生まれる
僕の眼を通して僕を眺めてる、「僕」「僕」「僕」と書いては殺す
モノクロの電子絵の具に掠れゆく街のフィルムを日々剥いで行く
世界中全ての窓に「窓」「地球」「風」「雲」「天使」「世界」と刻む
僕は君、僕は君から彼らへと、任意の二点でメフィストに会う
人生のルールを覚えて人生をプレイするのにひとりじゃ足りない
『コールドスリープ』
世の中の全ての単語を並べてもひとりの孤独を救えません
未来には過去の蓄積なんて無く世界が萌芽し虹となるだけ
何光年離れた先にあのときの手のぬくもりはそのままに光り
雨が降る気配がしたので窓を開け、消失点をすぐ傍に置く
息をしてないことにふと安堵して愛と呼ばれたそれを踏みにじる
夢の声世界の終わりのサントラを小さくかけて冷たい眠りを