コールドスリープ
由比良 倖

『永遠の青』

永遠の青が私の眼を染めて昨日を染めて手帳を染めて


心臓目線で眺めればあのとき街はただ流血を切望してた


絶望に慣れたひとりが絶望に慣れたふたりになっただけです


針のない時計が刻むような音、空の果てまで空は続いて


さらさらと鳴るその音の一粒に入って胎児みたいに眠る



『電子の海』

見つめ合うカメラとカメラ、悲しくて空を飛んでる、ここも空き部屋


眼の前の物が見えないシャーペンの折れた先から神が生まれる


僕の眼を通して僕を眺めてる、「僕」「僕」「僕」と書いては殺す


モノクロの電子絵の具に掠れゆく街のフィルムを日々剥いで行く


世界中全ての窓に「窓」「地球」「風」「雲」「天使」「世界」と刻む


僕は君、僕は君から彼らへと、任意の二点でメフィストに会う


人生のルールを覚えて人生をプレイするのにひとりじゃ足りない



『コールドスリープ』

世の中の全ての単語を並べてもひとりの孤独を救えません


未来には過去の蓄積なんて無く世界が萌芽し虹となるだけ


何光年離れた先にあのときの手のぬくもりはそのままに光り


雨が降る気配がしたので窓を開け、消失点をすぐ傍に置く


息をしてないことにふと安堵して愛と呼ばれたそれを踏みにじる


夢の声世界の終わりのサントラを小さくかけて冷たい眠りを


短歌 コールドスリープ Copyright 由比良 倖 2025-09-23 03:46:25
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